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サラリーマンの鶏肋随想

大して役に立たないが、捨てるには惜しいもの。サラリーマンに哲学は必要か。

「サヨナラ」ダケガ人生ダ  ~井伏鱒二『厄除け詩集』~

こんばんは。川崎 那尾道です。

 

『黒い雨』等で有名な井伏鱒二(いぶせますじ)。小説だけでなく、数多くの漢詩を訳しています。その中でも有名なのが于武陵(うぶりょう)の「勧酒(さけをすすむ)」という詩を訳したものです。まずは漢詩そのものを書き下し文とともに見てみます。

 

「勧 酒(酒を勧む)」 于武陵

勧 君 金 屈 巵   君(きみ)に勧(すす)む金屈巵(きんくっし)※

満 酌 不 須 辞   満酌(まんしゃく)辞(じ)するを須(もち)いず

花 発 多 風 雨   花発(はなひら)けば風雨(ふうう)多し

人 生 足 別 離   人生(じんせい)別離(べつり)足(た)る

                      ※金色の大きな盃のこと。

 

きっと長らくの友人との別れなのでしょう。旅立つ友になみなみお酒を注ぎながら、「花が開けば雨風が吹くこともある。人生は別れがつきものだ。」と言葉を送る。最後のお酒を二人で酌み交わす光景が目に浮かびます。

実はこの漢詩、そのまま訳すとごくごく普通な印象を受けてしまいます。そして作者の于武陵自体もそれほど有名な詩人であったわけではなかったと記憶しています。

(僕は専門家ではないので正しい解釈については他のサイト等をご参照下さい。)

 

このごくごく普通な漢詩を一躍有名にしたのが井伏鱒二の名訳です。

 

 コノサカヅキヲ受ケテクレ

 ドウゾナミナミツガシテオクレ

 ハナニアラシノタトエモアルゾ

 「サヨナラ」ダケガ人生ダ

 

この無機質なカタカナ・漢字の組み合わせと読んだ時の言葉のリズム感、そして最後の一文「サヨナラダケガ人生ダ」という響き。何とも心地よい気持ちになります。「人生別離足る」からどこをどうすればこの印象深い訳になるのでしょう。井伏鱒二の感性の非凡さというものを感じます。

 

僕がこの詩を知ったきっかけというのは大学の講義であったか、何かの本に載っていたのか、もう忘れてしまいましたが、この「サヨナラダケガ人生ダ」というフレーズだけ、いつの間にか強烈に頭の中に刷り込まれていました。

 

最近、この詩が載っている本がないかと探していたら、講談社学術文庫に収められていることが分かりました。

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井伏鱒二『厄除け詩集』講談社学術文庫 p53

 

古くからの大切な友人との別れにふさわしい一文だと思いませんか。

 

 

 

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